第1期生卒業に際して

第1期生卒業に際して(2008年3月18日)

過日、ある同僚の先生の紹介を得て、日本を代表する女流棋士の方々と宴席の機会を持った。男尊女卑の思想が色濃く残る将棋界では、女性がプレーを行うだけでも様々な制約があり、まして多年にわたって生き残ることなど至難の業である。最も若い棋士の方にその秘訣を問うてみた。「1つ1つの対局を蔑ろにしないことでしょうか」彼女の答えはいたってシンプルだが、その意味は深遠である。棋戦は知力、体力、精神力の真剣勝負だ。幾手も先を読み、様々な可能性を考慮する一方で、相手の長考に耐え、さらにその顔色や動作からその日の調子さえも推し量り、最終的な勝利を勝ち取らなければならない。真剣に向き合う1回1回の対局が、棋士たちを1回りも2回りも大きくさせてゆくのだろう。
今年卒業してゆく3名を待ち受けているのも、将棋と同じ「勝負の世界」である。決して、「勝負は勝たなければ意味がない」とか、「出世がすべてだ」と言っているのではない。社会人生活においてぶち当たる様々な困難から逃げずに、きちんと取り組むことが大切なのだと説いているのである。山の向こうにある景色は、その山を登頂した者にしか見えない。課題をクリアした者にだけ、その課題の先にあるものが見えてくる。成長の歩みを止めなければ、否応なく周囲も時代も認めるところとなり、社会において指導的立場に立つことも可能だろう。
社会人生活は応用問題の連続である。受身的に過去の正解パターンを吸収する高校までの学習と、問題を能動的に解決していかなければならない社会人生活とをつなぐ大学教育とはいかにあるべきなのか?私は着任以来、ケーススタディやグループワーク、企業訪問など様々なツールを用いて、学生たちの動機づけ、意識の向上を狙ってきた。幸いにも、僅か2年の間で多くの学生から支持を得るに至ったが、その真価が問われるのはこれからであり、今後卒業生たちがどれほど活躍してくれるかにかかっている。ゼミで学んだ無形の財産を糧に、社会という広いフィールドの各ポジションに散っても、後進の良き見本となってくれることを期待してやまない。
佐藤祐一君は、草創期のゼミ長として、私の意図をよく汲み、ゼミの精神の浸透に力を注いでくれたと思う。その卓越したアジテーション能力は、就職先の教育ビジネスの場でもいかんなく発揮されることだろう。また、松田、天貝の両君は、常に客観的な姿勢で物事を捉え、時に鋭い指摘を向けながらも、ゼミの骨格を形作ってくれた。共に社会に出てもその眼力を失わないでほしい。卒業おめでとう!!

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