第5期生卒業に際して

第5期生卒業に際して(2012年3月20日)

昨春、熊本で学会があった折、豊前街道の宿場町として栄えた山鹿まで足を伸ばした。山鹿は今でこそ鉄道の主要路線から外れているが、その分、往年の面影を色濃く残す遺構が数多く存在する。芝居小屋の八千代座もその一つだ。明治期に地元の旦那衆が組合を組織し、株を購入して建設。松井須磨子、片岡千恵蔵、長谷川一夫ら歴代の一流の役者がその舞台で熱演を繰り広げた。訪れてみて、その優美さに驚かされたのはもちろんだが、最も印象に残ったのは、劇場を守り育てようという地元の人々の意識の高さであった。案内役の女性の話によると、八千代座は一度は老朽化が進んだものの、老人会による募金活動「瓦一枚運動」がきっかけで5万枚の瓦が修復され、その活動は若者たちにも波及しているという。桟敷席や廻り舞台、天井全面の広告絵や装飾品に至るまで、建設当時の資料を丹念に追いながら復元を図ったらしい。しかしながら、ハード面ではそのような古き良きものを残しながら、ソフト面では時代の変化にむやみに抗うのではなく、新しい試みを続けている。少しでも多くの人に親しみを持ってもらおうと、著名人による硬い公演ばかりではなく、現代劇や地元の人たちのお稽古事の発表会まで演目の裾野を広げている.日本の多くの重要文化財にありがちな、見学したくてもほとんどの箇所が立入禁止などということもない。伝統を生かす最大の術とは、「意識を高く持つ人々の存在」と「変化し発信し続けること」だと強く感じた。
有吉ゼミもまた同じであろう。5期生が入ゼミする時点で、すでに有吉ゼミは学部内随一の人気ゼミの座にあった。しかし、この数年、有吉ゼミが更なる進化を遂げ、学部内にその名を轟かせることができたのは、彼らが地位に安住することなく、ゼミをより良いものにしようという意識で臨んだからに他ならない。彼等は私が課した幾多のケーススタディにおいて卓越した成果を残した。しかし、それは単に課題を消化したのではない。真摯に取り組む傍ら、課題に対して常に疑問を持ち続け、その疑問がゼミの進化へとつながった。今でこそゼミのスタンダードとなっているが、厚みのある内部環境分析を行うために、ケーススタディの対象企業の歴史を徹底的に深堀するということは5期生から始まった。また、昨春より導入されている新しいフレームワークも、マーケティングはより消費者重視でなければならないのではないかという彼等の疑問から端を発したものである。また、5期生はゼミ内に籠ることなく、その成果を学内外に発信してくれた。2年次におけるDUOでのクラッチバッグの企画・販売、3年次における積極的なインターンシップ活動などはその好例だろう。他流試合で得られたエキスはゼミに新風をもたらし、ゼミの価値をさらに押し上げてくれた。このような5期生の遺伝子を後輩たちが受け継いでくれるならば、有吉ゼミも八千代座の如く末永く輝き続けることだろう。今関伸弥君は5期生唯一の修了者となるが、彼の持つ「モノを考える姿勢」は5期生とこの間のゼミの発展を象徴していると言っても過言ではないだろう。その多大な功績に感謝してやまない。諸井唯さんはその明るさで後輩たちを支えてくれた。ともに社会での活躍を願う。卒業おもでとう!

平成24年3月吉日

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