第4期生卒業に際して

第4期生卒業に際して(2011年3月20日)

過日、東京室町の三越本館で池坊の華道展が催された。10数年前に初歩的ではあるが手解きを受けたことのある私は、1つ1つの作品を興味深く眺めながら、日頃ゼミ生たちに課しているビジネスケースとの不思議な共通項に気付かされた。華道は、真(しん)、副(そえ)、体(たい)といった型を基礎としながらも、野に生けるすべての草花の中から選び出した花材をどのように加工し、これまた数多ある花器とどのように組み合わせ、観る者を魅了する逸品に仕上げられるかを競う。ゼミのケーススタディもこれに似た要素があり、私の執筆した教科書のフレームワークを踏まえつつ、自社に蓄積された内部資源と消費者や競合他社に関する外部データをうまく斟酌して、いかに緻密な理論を構築できるかどうかが試される。もちろん、利潤追求を旨とし戦略の巧拙が存廃を決する企業のマーケティングを、華道のような芸事と同一視はできない。しかしながら、一つとして同じ華道作品が出来上がらないように、戦略にも無数の解が存在し、そこが醍醐味でもある。また、私もそうであったが、華道の初心者はできるだけ多くの花材を使い、枝葉を削ぎ落とすことを恐れるあまり、かえって作品の表現力が劣化する。ゼミ生たちも入ゼミ当初は例外なく無駄なデータや表面的な情報に振り回され、ケース企業や消費者ニーズの本質を捉えきれず、不十分な戦略しか描けない。しかし、熟練者の作品が細部に拘りつつもシンプルで美しいように、4期生も数々のケースで鍛えられながら、無駄がなく、しかし論理の断絶の無い戦略が立案できるようになった。
彼らはこれからゼミを離れ、新しい自分の人生に踏み出すことになる。しかし、その人生こそが最大のマネジメントの材料であることを忘れないでほしい。4期生は自分という花の本質を見極め、自分を生かせる花器を探すべく、厳しい就職戦線を戦い抜いた。これからも自分を最大限に咲かせ、実をならせるべく、成長を怠らないでほしい。舩生武尊君には選考段階から潜在的な成長性を感じていたものの、想像以上の伸び代の大きさには私も驚かされた。財務のケースから火がついて成長のエンジンがかかり出し、ゼミ長就任、ハウス食品でのインターン、就職活動、卒論など、それぞれの過程で新たな課題を発見し進化を遂げていった。その存在感で後輩たちから畏敬の的となっている。山下大地君は常にその行動力で周囲を圧倒した。早稲田の友成ゼミへの聴講、浜野製作所での社員全員ヒアリングなど、自らの足で入り込んでいく様は後輩たちにも良い影響をもたらしている。中川拓也君は自らが招いた厳しい現実に正面から立ち向かい、同じ企業から2度の内定を勝ち取る偉業を成し遂げた。その姿にどれほど多くのゼミ生が勇気づけられたことだろう。また、親身になって後輩を指導する姿勢も大きな支持を集めている。3人は参謀役として私の意図をよく汲み上げ、適切な助言をしてくれた。彼らのおかげでゼミは混沌期を抜け出すことができたと思う。原島佑果さんは物静かながらも深い洞察を持ち、プレゼンにも鋭い批評を向けてくれた。今後はさらに自信を持って世の中と対峙してほしい。中島陽子さんと飯塚世奈さんは、ゼミで学んだことを存分に吸収し忠実に実行してくれた。それは2人の残した丁寧な卒論によく表現されていると思う。高橋祐基君はその情報収集能力でゼミを支えてくれた。皆の成長と社会での活躍を切に願う。卒業おめでとう!

平成23年3月吉日

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